プレママ必見!妊娠中・授乳中の歯科治療、知っておくべき全知識 三浦さやか, 2026年3月5日2026年3月27日 最終更新日 2026年3月27日 by 三浦さやか こんにちは、三浦さやかです。元歯科衛生士として6年間診療室に立ち、現在はオーストラリア・メルボルンを拠点に医療ライターとして活動しています。 「妊娠中って歯医者に行っても大丈夫なの?」「麻酔やレントゲンは赤ちゃんに影響しない?」「授乳しているときに処方された薬を飲んでいいの?」……プレママのみなさんから、こういった質問をほんとうによく受けます。 じつは日本では「妊娠中は歯医者に行かないほうがいい」という誤解が根強く残っています。でも、歯科衛生士として現場を知る私から言わせてもらうと、それは逆です。妊娠中こそ、歯の健康に気を配ることが、赤ちゃんの健康を守ることにもつながるんです。 この記事では、妊娠中・授乳中の歯科治療について、麻酔・レントゲン・薬の安全性から、つわりのピーク中でもできる口腔ケアの工夫まで、元歯科衛生士目線でわかりやすく解説します。メルボルンの予防歯科事情も交えながらお届けしますね。 目次1 「妊娠中は歯医者NG」は大きな誤解!お口のトラブルが増える理由1.1 妊娠するとお口の中はこんなに変わる1.2 歯周病が赤ちゃんに影響する?早産・低体重児との深刻な関係2 妊娠の時期別・歯科受診のタイミングガイド2.1 妊娠初期(1〜3ヶ月):侵襲的な治療は控えめに2.2 妊娠中期(4〜7ヶ月):治療のゴールデンタイム2.3 妊娠後期(8〜10ヶ月):応急処置に留める3 麻酔・レントゲン・薬は大丈夫?気になる疑問を一気に解決3.1 局所麻酔は妊婦に安全か3.2 レントゲン撮影のリスクはほぼゼロ3.3 妊娠中に使える薬・使えない薬4 授乳中の歯科治療、どこまで大丈夫?4.1 授乳中の局所麻酔は問題なし4.2 授乳中に処方される薬について5 つわりのピーク中も諦めない!妊娠中の口腔ケア実践術5.1 つわりで歯磨きができないときの工夫5.2 食生活の変化に対応したケア5.3 自宅でできるケアグッズ選び6 歯科医院を受診する前に準備しておきたいこと6.1 受診時に必ず伝えること6.2 歯科医師への確認リスト7 オーストラリアから見た日本のマタニティ歯科8 まとめ 「妊娠中は歯医者NG」は大きな誤解!お口のトラブルが増える理由 まず知っておいてほしいのは、妊娠するとお口の環境がガラッと変わるということです。 妊娠するとお口の中はこんなに変わる 妊娠中はエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が急激に増加します。これらのホルモンは歯周病の原因菌を活性化させる働きがあるため、歯ぐきが腫れやすく、出血しやすい状態になります。これを「妊娠性歯肉炎」といい、妊婦さんの実に30〜100%に見られるとも言われています。 加えて、つわりによって次のような悪循環が生まれます。 嘔吐による胃酸の逆流で、歯のエナメル質が溶けやすくなる 吐き気で歯磨きができず、プラーク(歯垢)が蓄積する 唾液の粘度が高まり、口の自浄作用が低下する 食べ物の嗜好が甘いものに偏り、虫歯リスクが上がる また、妊娠後期になると胃が圧迫されて少量頻回の食事になりがちです。食事の回数が増えるほど口の中が酸性になる時間も長くなり、虫歯ができやすくなります。 歯周病が赤ちゃんに影響する?早産・低体重児との深刻な関係 ここは特に強調したいポイントです。単に「歯が痛いから困る」という話ではなく、歯周病はお腹の赤ちゃんに直接影響する可能性があるんです。 歯周病が進行すると、歯周病菌が出す炎症性物質(プロスタグランジンやサイトカインなど)が血液を通じて全身に広がります。これが子宮に届くと、子宮収縮を促すシグナルとなり、早産や低体重児出産のリスクを高めると報告されています。 アメリカで発表された研究では、重度の歯周病を持つ妊婦は、そうでない妊婦と比べて早期低体重児出産のリスクが約7倍にもなるというデータが示されました。その後も複数の研究がこの関連性を支持しており、日本歯科医師会でも妊娠中の口腔ケアの重要性が強く呼びかけられています。 「歯のことは産んでからゆっくり」ではなく、妊娠中にこそ歯科を受診すべき理由がここにあります。 妊娠の時期別・歯科受診のタイミングガイド では、妊娠のどの時期にどんな治療ができるのでしょうか?一覧で整理してみます。 時期推奨される対応妊娠初期(1〜3ヶ月)口腔衛生指導・ブラッシング指導・緊急処置のみ妊娠中期(4〜7ヶ月)定期検診・スケーリング・虫歯治療・抜歯も可能妊娠後期(8〜10ヶ月)応急処置のみ。長時間の治療は産後に持ち越す 妊娠初期(1〜3ヶ月):侵襲的な治療は控えめに 妊娠初期は胎児の器官が形成される大切な時期です。つわりで気分が不安定になることも多く、長時間の診療は体に負担がかかります。この時期は「緊急の痛みや炎症への対処」と「口腔衛生指導(ブラッシング指導・クリーニングなど)」を中心に行い、虫歯治療などは安定期まで待てる場合は先送りにすることが多いです。 ただし、強い痛みや感染が起きているときは、週数に関わらず処置が必要です。無理に我慢すると炎症が全身に波及するリスクがあるので、迷わず歯科医院に相談してください。 妊娠中期(4〜7ヶ月):治療のゴールデンタイム 安定期に入るこの時期が、歯科治療に最も適したタイミングです。つわりが落ち着き、お腹もまだそれほど大きくないので、治療チェアに座っていても比較的楽に過ごせます。 定期検診・クリーニング(スケーリング) 虫歯の処置(詰め物・被せ物) 歯周病治療(スケーリング・ルートプレーニング) 必要に応じた抜歯 これらはすべて妊娠中期に行うことができます。アメリカ産婦人科学会(ACOG)のガイドラインでも「妊娠14〜20週が非緊急処置に最適な時期」と明記されており、日本でも安定期での受診が強く推奨されています。 妊娠後期(8〜10ヶ月):応急処置に留める 後期に入ると、長時間仰向けの体勢をとることで「仰臥位低血圧症候群」(大きくなった子宮が下大静脈を圧迫し、血圧が下がる状態)を起こす可能性があります。また、治療に伴うストレスが早産を誘発する恐れも。この時期に歯科受診が必要になった場合は、短時間での応急処置を行い、根本的な治療は産後に回すのがベターです。 麻酔・レントゲン・薬は大丈夫?気になる疑問を一気に解決 「麻酔を使って大丈夫?」「レントゲンは赤ちゃんに悪影響じゃないの?」という声はとても多いです。歯科治療の代表的な心配をひとつずつ整理しましょう。 局所麻酔は妊婦に安全か 結論から言うと、歯科で使う局所麻酔(リドカインなど)は妊娠中でも安全とされています。局所麻酔は注射した部位にとどまり、全身に広がる量は非常にわずかです。たとえ胎盤をごく一部通過したとしても、胎児に悪影響を与えるほどの量ではないと考えられています。 アメリカ歯科医師会(ADA)の公式サイトでも、エピネフリン(血管収縮薬)入りの局所麻酔薬を妊娠中に使用することは安全だと明記されています。 むしろ、麻酔なしで痛みを我慢しながら治療を受けることの方がストレスになり、体への負担が大きくなります。必要であれば躊躇なく使ってもらって大丈夫です。「麻酔が怖い」という理由で治療を諦めないでほしいと、元歯科衛生士として強くお伝えしたいです。 レントゲン撮影のリスクはほぼゼロ 歯科用X線の放射線量は、1回の撮影で約0.01mSv程度です。これは東京〜ニューヨーク間を飛行機で移動したときの被曝量(約0.1mSv)の10分の1以下。さらに、撮影時には必ず鉛入りの防護エプロンを着用するので、お腹への影響はほぼゼロと言えます。 メルボルンで取材した歯科医師も「防護エプロンさえしていれば、デジタルX線の被曝量は気にするレベルではない」と話していました。オーストラリアでも妊婦へのレントゲン撮影は防護エプロン着用を前提に行われており、必要な診断に積極的に使われています。 「必要なレントゲンを撮らずに虫歯の深さや骨吸収の程度を見誤る方が、長い目で見てリスクが高い」というのは、歯科衛生士時代の先生方もよくおっしゃっていました。 妊娠中に使える薬・使えない薬 薬については、どれを使ってよくてどれはダメなのか、きちんと整理しておきましょう。 薬の種類比較的安全な薬注意・回避が必要な薬鎮痛剤アセトアミノフェン(カロナール)ロキソニン・ボルタレン(妊娠28週以降は禁忌)、アスピリン抗生物質ペニシリン系(アモキシシリン)・セフェム系(フロモックス)・マクロライド系(クラリス)テトラサイクリン系・キノロン系 アセトアミノフェン(カロナール)は妊娠全期間を通じて比較的安全とされており、歯の痛みや術後の痛みに対して第一選択となっています。一方、ロキソニンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は妊娠28週以降に使用すると胎児の循環に影響する可能性があるため、妊娠後期は使用が禁忌とされています。 なお、処方された薬については必ず処方した歯科医師に「妊娠中(または授乳中)です」と伝えてから受け取ってください。飲む前に産婦人科医に確認するのも安心ですね。 授乳中の歯科治療、どこまで大丈夫? 出産後も「授乳中だから薬を飲んでいいの?」という悩みは続きます。授乳中の歯科治療についても整理しておきましょう。 授乳中の局所麻酔は問題なし 授乳中の局所麻酔は基本的に安全です。リドカインなどの局所麻酔薬は母乳への移行量が非常に少なく、投与後2〜3時間で血中濃度がピークに達しますが、その後は急速に代謝され、24時間後にはほぼ排泄されます。 ただし、生後3ヶ月未満の赤ちゃんはまだ肝代謝機能が未成熟なため、少し慎重に考える必要があります。治療当日だけ事前に搾乳しておいて、治療後数時間は搾乳済みの母乳を与えるという方法をとる方もいます。気になる場合は歯科医師や産科医に相談してみてください。 授乳中に処方される薬について 授乳中に歯科で使われる代表的な薬の安全性をまとめます。 薬の種類授乳中の安全性アセトアミノフェン(カロナール)安全。母乳への移行量は微量イブプロフェン比較的安全とされるペニシリン系・セフェム系抗生物質安全。乳児への影響はほぼなしマクロライド系(クラリス等)基本的に安全 国立成育医療研究センターが公開する「授乳中のお薬Q&A」では「母乳から赤ちゃんが摂取する薬の量は、赤ちゃん自身の治療量よりもずっと少なくなる」と説明されており、無闇に授乳をやめることは推奨されていません。授乳中に薬を処方されたとき、まず参照すべき信頼度の高い情報源のひとつです。 つわりのピーク中も諦めない!妊娠中の口腔ケア実践術 治療の話だけでなく、日々のセルフケアについても触れておきたいと思います。 つわりで歯磨きができないときの工夫 「歯ブラシを口に入れただけで吐きそう」というつわりのピーク、歯科衛生士の私でも、担当した患者さんたちの辛さは痛いほど伝わりました。でも、この時期に口腔ケアをサボると虫歯・歯肉炎がどんどん進行します。以下の工夫をぜひ試してみてください。 吐き気がひどいときは、まず口をゆすぐだけでもOK 嘔吐後すぐに歯磨きするのは避けて、30〜60分待ってから磨く(嘔吐直後は胃酸でエナメル質が軟化しており、磨くと削れてしまう) ヘッドが小さい子ども用の歯ブラシに変えると奥まで入れやすい 歯磨き粉の香りや泡立ちが刺激になる場合は、無香料・低発泡タイプか水だけで磨く 磨くときは前傾姿勢で下を向き、嘔吐反射が起きにくい角度を工夫する 「歯磨き粉なしで磨いてもあまり意味がないんじゃ?」と思う方もいるかもしれませんが、歯磨きの主な目的は「プラークをこすり落とすこと」です。磨き粉がなくても丁寧にブラッシングすれば十分に効果があります。 食生活の変化に対応したケア 妊娠中は食の好みや食事スタイルが大きく変わります。口腔ケアの観点から意識してほしいポイントを紹介します。 酸っぱいものや甘いものへの偏食が続く場合は、食後に水で口をゆすぐ習慣を 間食が増えたときは、その都度軽くうがいするだけでも効果あり キシリトールガムを噛むと唾液の分泌が促されて、口腔内の酸を中和しやすくなる ミネラルウォーターをこまめに飲むことで、口腔内の乾燥を防げる 自宅でできるケアグッズ選び メルボルンのマタニティケア専門の歯科クリニックで取材した際、歯科衛生士さんたちが「妊娠中のグッズ選びは大切」とよく言っていました。参考にしてみてください。 歯間ブラシやデンタルフロスは、妊娠性歯肉炎の予防に特に効果的 洗口液はアルコール入りだと刺激が強いので、ノンアルコールタイプを選ぶ ウォーターピック(口腔洗浄器)は歯肉マッサージ効果もあり、こちらメルボルンのプレママにも大人気のアイテムです。私も毎朝フロス&ウォーターピックでケアしていて、まさに自分が実験台です(笑) 歯科医院を受診する前に準備しておきたいこと 受診時に必ず伝えること 歯科医師に事前に伝えておくべき情報を整理します。妊娠中であることを告げずに治療を受けてしまうと、薬や処置の選択が変わることがあります。初診時はもちろん、治療途中で妊娠が判明した場合も、すぐに伝えてください。 妊娠中・授乳中であること(妊娠週数も正確に) かかりつけの産婦人科医の名前と連絡先 現在服用中のサプリメント・薬(産婦人科で処方されたものも含む) アレルギーの有無(薬剤・金属など) 前回の歯科受診からの期間と治療内容 歯科医師への確認リスト 診察室に入ったら、以下の質問をしてみましょう。スマホにメモしておくと便利です。 「今日の治療は赤ちゃんに影響はありませんか?」 「麻酔は必要ですか?使う場合の種類と量を教えてください」 「レントゲンが必要な場合、防護エプロンを用意していますか?」 「処方する薬は妊娠中(授乳中)でも安全ですか?」 「この治療は今すぐ必要ですか?産後まで待てますか?」 歯科医師も「妊婦さんから質問された」と感じるより、「一緒に考えたい」という姿勢で話せると、よりオープンなコミュニケーションが生まれます。 オーストラリアから見た日本のマタニティ歯科 メルボルンに来て驚いたことのひとつが、妊娠中の歯科ケアが「当たり前のこと」として文化に根付いていることです。 こちらでは妊娠が判明すると、産婦人科医(Obstetrician)と並行してかかりつけの歯科医師(General Dentist)にも連絡するのが一般的なルーティン。「Maternity Dental Package(マタニティ歯科パッケージ)」という妊婦向けの特別検診メニューを設けているクリニックも多く、妊娠中・授乳中に特化したアドバイスを受けられる環境が整っています。 オーストラリア歯科医師会(ADA)のガイドラインでも、「妊娠前に歯科検診を受けること」「安定期に歯科を受診すること」が明記されており、地域の助産師(Midwife)が口腔ケアのアドバイスをセットで行うクリニックもあります。これは日本ではまだまだ見られない光景です。 一方、日本では「妊娠中に歯医者に行っていい」という認知がまだ低く、実際に受診する妊婦さんの割合もオーストラリアに比べると少ない印象があります。 「世界基準を知ることで、国内での選択肢を広げてほしい」というのが、海外から情報発信を続ける私の一貫したテーマです。日本のプレママのみなさんにも、ぜひ「妊婦こそ歯医者さんと仲良くする」という発想を持ってほしいなと思います。 まとめ 妊娠中・授乳中の歯科治療について、ポイントをまとめます。 妊娠するとホルモン変化やつわりの影響で、虫歯・歯肉炎のリスクが高まる 歯周病は早産・低体重児出産のリスクを高める可能性があり、早期ケアが重要 妊娠中期(安定期)が最も治療しやすい時期。レントゲン・局所麻酔も適切に使えば安全 鎮痛剤はアセトアミノフェン(カロナール)が全期間を通じて比較的安全。ロキソニンは妊娠後期に禁忌 授乳中も局所麻酔・ペニシリン系抗生物質・アセトアミノフェンは基本的に安全 つわりのピーク中も、工夫次第で口腔ケアは続けられる 歯科受診前に妊娠週数・服用中の薬・産婦人科医の連絡先を準備しておく 「赤ちゃんのために我慢する」ではなく、「赤ちゃんのために歯科受診する」という視点の転換が大切です。不安なことは歯科医師に率直に質問して、安心して治療を受けてください。次に知りたい海外トピックがあれば、ぜひコメントやウェビナーで聞かせてくださいね! 関連記事: 歯科治療とSNS:インスタ映えする笑顔のトレンドと現実 歯科衛生士から医療ライターへ。私が「一次情報」にこだわり続ける理由 なぜ海外のビジネスエリートは歯に投資するのか?成功者が実践するオーラルケア戦略 「セラミックは割れる」は誤解?10年後も美しさを保つためのメンテナンス術 コラム